・・・何時からだろうか。
僕は歩き続ける・・・、深く続く木々の中を。
空を覆い隠すかのように、聳え広がる無数の枝。
木漏れ日の光が、辺りを薄く照らす。
まるで僕を招いてるかのように、続く細く先の見えない道。
同じ景色しか見えない木々の中を、ただ好奇心だけが僕の足を動かし歩き続ける。
この先の何かを求めて、僕を呼ぶ声が聞こえるから・・・。

・・・どこへ向かうのだろうか。
立ち止まる事も無く、木の根の迫り出す波打つ道を・・・。

そう、僕は最初からここにいたわけじゃない。
僕の村・・・、何も無いけど穏やかで、自然に囲まれた小さな村。
自然の恵みを受けて、そこで生活を続けてきた人々。
僕もその中の1人だった、今この時がくるまでは・・・。

・・・何時まで続くのだろか。
今もまだ歩き続ける・・・、ただ前だけを見つめ、振り返ると消えてしまいそうなこの道を。

思い返してみる、どうして僕はここにいるのだろうと。
僕はみんなと違っていた・・・。
人付き合いが苦手だった・・・、話をするのが好きじゃなかった・・・。
いつも1人でいることを好んだ・・・、他人から干渉されるのを嫌った・・・。
だから何時も無口だった。
大人達の目から見れば、大人しく落ち着いた子と思われるようだった。
同じ子供の目から見れば、それが気に障るものもいるようだった。
何かと話しかけてくるものもいた、嫌がらせをしてくるものもいた。
気に入らないなら、近づいてこなければいいのに・・・。
そう思うこともよくあった。
毎日続く同じ日々・・・、そして目覚める朝。
今日この日も、何時もの一日が始まるはずだった・・・。


窓の隙間から零れる、暖かい朝の光。
小鳥のさえずりが、僕の耳に入り朝を告げる。
顔を洗い服を着て、川へ水を汲みに行く。
今日の食事分の収穫を、畑から取ってきて泥を洗い落とす。
こうして朝の涼しいうちに、僕の役割が終わる。
後の残りは自由な時間、まだ子供である特権なのだろう。
大人たちは山や海に狩りに出かけ、この村も昼前から夕方にかけては僕たち子供や老人だけになる。

何時もの役割も終えて、一息ついてる時だった。
僕と同じくらいの子供が数人集まって、何か相談してるのが見えた。
何かまた悪巧みでも考えてるのだろうと、僕は何時もの場所に行こうと足を進める。
その時、僕を引き止める声が背後から聞こえてきた・・・。


・・・迷いの森に行かないか?・・・

これがすべての始まりだった・・・。
迷いの森・・・、この村では誰も立ち入る事を禁じられている所。
この森の奥にはどんな願いも叶えてもらえると言う、古くからの言い伝えがあるらしい。
過去に何度も願いを叶えて貰おうと、多くの人が森の奥を目指しては行った。
でもその殆んどは、二度と帰ってくることはなかったらしい。
森には怪物がいると言うものや、精霊が人の心を惑わせて森を彷徨わせると言うものもいた。
無事に帰ってきたものも、願いが叶うどころか酷く怯えた様子で、とても普通の状態ではないと聞かされてきた。
そしてみんなの記憶の中には、恐ろしい森だと言う事が植えつけられていた・・・。

さっきの数人が、僕にもそこに行かないかと話しかけてきた。
誰が一番勇気があるか、その森で確かめるらしい・・・。
何時もの僕なら相手にしないで、その場を立ち去るだけだった。
そして毎度の罵声が、背後から聞こえる。

でも何故か、今日の僕は違っていた・・・。


・・・別に良いよ・・・

僕の予想外な反応に、声をかけてきた方が逆に驚いていた。
どちらにしても強引に僕を連れて行くつもりだったのだろうけど、さすがに予定に無い反応だったらしく一瞬あいつ等も動きを止めた。
そして、気を取り直したように森に向かう・・・。
1、2、3、4・・・、僕を入れて5人。
村の人たちに見つからないように、僕たちは急ぎ足に森の入り口までたどり着いた。
明るい外から見ても、先が見えないほど薄暗い森の中・・・。
ここに来て躊躇したのか、漠然と森の中をみんな見つめていた。
一歩、二歩、三歩と、僕は森に歩み寄った。
それを合図に、他のみんなも森の中に入って行った。
薄暗く覆い茂る森・・・、道と言う道は無く無造作に生え茂る木々。
ついに僕たちは、迷いの森に足を踏み入れた。

その時、僕の耳に囁く何かを感じた・・・。

・・・ふと気がつくと、僕の前に道が広がっている。
確かにさっきまでは、ここに道など無かったはずなのに・・・。
そして僕の耳元を、優しく風が吹きぬける。
僕をまるでこの先に、誘っているかのように・・・。
辺りを見渡しても風が通りそうな様子も無く、木々が聳え広がるばかり。
他にあるものは、僕の前に薄暗く続く道ばかりだった。

他には何も無く、聳える木々と薄暗い道ばかり・・・。

今この森の中に、いつの間にか僕1人だけが立っている。
そしてまた、僕の耳元で風が囁いた・・・。

風が囁く先にまだ続く、終わりの見えない道。

まっすぐ進んでるのだろうか、緩やかに曲がっているのだろうか・・・。
みんなはどこに行ってしまったのだろうか・・・。
僕はどこに向かっているのだろうか・・・。
この先に何があるのだろうか・・・。

頭の中で、考えがぐるぐる回っている。
ただ解っているのは、風の囁きに導かれ好奇心に溢れた感情で1人歩き続けている事。
同じ景色を向かえ、そして見送りながら・・・。


・・・どのくらい歩いたのだろうか。
もうずいぶんと長い時間、こうして歩き続けてる気がする。
他のみんなはどうしてるんだろう・・・。
もう村に帰ったのだろうか、それとも僕のように歩き続けてるのだろうか・・・。
・・・なんだろう?
そんなのどうでもいい事のはずなのに、何故か頭にふと浮かんだ・・・。
そうだ、僕は1人になりたかったんだ・・・。
誰にも邪魔されずに、ずっと1人だけでいたかったはずなんだ・・・。
どんな願いでも叶えてもらえる森、この森が僕の願いを叶えたのだろうか。
僕の願い・・・、僕の望み・・・。

そう考えた時、前方の道に薄っすらとした明かりが見えた・・・。


この森に入ってから、初めてとも言える違った風景。

・・・なんだろう?

込みあがる好奇心を抑えながらも、自然と早足に歩き出していた。
誰かいるのだろうか・・・。
何かあるのだろうか・・・。
それとも・・・。
何故そう思えるのかは解らないけど、あそこが出口だとは考えられなかった。
不安感よりも、期待感が湧き上がる。
最後にこんな気分になったのは、いったい何時だっただろうか・・・。
もう、忘れてしまっていた感情・・・。
あそこにはきっと、何かがある!
僕の足が、より一層歩みを強める。

そしてついに僕は、明かりの見える場所までたどり着いた・・・。


・・・そこは空洞の様になっていた。
歩いてきた通路と同じように、木の根の迫り出す波打つ地面。
壁からも無数の木の根や、様々な植物が迫り出している。
見上げた天井には空は見えなく、覆う様に岩が完全に塞いでいる。
日の光が差し込むところも無いのに、辺り一面に光が溢れている。
どうやら壁や天井など周囲には無数のコケが生えていて、それらが発光して辺りを照らしてるようだ。
暫らくの間僕は、その景色に見惚れていた・・・。

奥にもまだ続いてるようで、かなり広さがありそうな感じだった。
辺りを見渡しながら、僕は奥に歩みを進めた・・・。


進むにつれて、いろんな木々や花々も増えてきた。
水の流れも聞こえる・・・。
すごく不思議な感じがするのに、ただこの景色を楽しみながら歩き進む。

・・・こんな綺麗な所があったんだ。

滝のように天井から落ちる水が、小川のせせらぎの様に辺りの植物に水を与えてる。
しばらくして、前方に何か見えた気がした・・・。

・・・人影?

この森に来て僕は初めて、自分以外の人と出逢った・・・。

自分以外の人と初めて出逢った・・・、そう思った瞬間。

「何年ぶりかな、ここに人間が来たのは」

そう言葉を口にしたその人の姿を見て、僕は一瞬自分の目を疑った。
僕の前に立っているその少年は、まるで僕の姿そのものだった・・・。

「き・・・、君は、いったい・・・。」

何とか口から出せた、僕の精一杯の言葉だった。

「私の姿を見た人間は、皆驚きの顔を見せてきたが・・・。」
「お前の驚き方は、他の者とは少し違うようだな。」

目の前の僕がそう語りかけ、そのまま僕の方を見つめ続けていた。


・・・数秒の沈黙後、目の前の僕がまた語りかけてきた。

「私が、怖くは無いのか?」

その質問の意味が解らないまま、僕は自分の思ったことを答えた。

「不安な気持ちはあるけど・・・、でも怖いとは思わない。」

僕の返事を聞くと一瞬考える仕草を見せ、また僕に質問してくる。

「この私の姿が、お前には何に見える?」

何が聞きたいのだろう・・・。
僕は質問の意図が見えず、ただありのままに答えるしかなかった。

「僕と・・・、僕と同じ姿に見える。」

そう答えると少し微笑むかのように、目の前の僕はまた話し始めた。

「そうか・・・、人間を見るのも久しいが、お前の様な人間も本当に久しいな。」
「今まで殆んどの人間は私を見るなり恐れ逃げるか、私を殺そうと襲い掛かるものばかりだったからな・・・。」

そう言い終わる瞳は、何故か寂しそうにも見えた・・・。


・・・言葉の意味が解らなかった。
そして僕が、不思議そうな顔をしていると。

「私の姿は見る者によって、それぞれ別のものに見えるのだよ。」
「人の心の奥底に潜む、強い欲望や恐怖心などが私の姿を変え映し出す・・・。」

欲望や恐怖心・・・。
自分の心を映したものが、この僕の姿なんだろうか?。
戸惑う僕を前に、話しはまだ続いた。

「殆んどの者が見る私の姿は、怪物や宝などを守る番人にでも見えたのだろう。」
「そして、欲に心奪われるものが多くいた・・・。」
「だから私はこの森の奥に誰も入れないようにしたのだが、どうやら精霊達がお前をここまで招いた様だな。」

そう言い終わると、僕の方へ近づいて来た。
そして目の前の僕と同じ姿をした少年が、僕に一言問いかけてきた・・・。

「お前の望みはなんだ?」


僕の望み?・・・。
どうして突然そんなことを?
ここが、何でも望みの叶う森だから?

「お前も望みがあって、この森に来たのだろう?」

戸惑う僕を見透かすように、目の前の僕はそう話した。

「わからない・・・。」

僕は1人になりたかった、確かにそう望んでいた。
でも、それを願ったわけでもなかったし、叶えたくてこの森に来たわけでもなかった。

「そうか、欲を持ってここに来たわけではなさそうだからな。」
「なら、少し話しでもするかな、そうすれば何か浮かぶかもしれないだろ。」

そう言いつつ、僕をもっと奥へと招いた。


少し奥まで入ると、椅子の様に競り上がった木の根に座り、僕達は話しを続けた。
村の事、村での仕事の事、何時も何かと話しかけてくる奴の事、自分の事、この森に来る事になった理由・・・。
他にもいろんな話しをし、そして聞いた。
今まで自分の事を、こんなに話した事があっただろうか。
こんなに誰かと話をしたのも、初めてのことかもしれない・・・。
僕はいつの間にか、話に夢中になっている自分がいることに気がついた。

ずっと誰もいない道を歩き続けて、ただ1人誰とも話すことなくいた時間・・・。
1人でいたいと思っていたはずなのに、誰とも話したいとは思わなかったのに。
誰かが側にいる事が、こんなに安心できる事だったなんて・・・。
誰かと話せる事が、こんなに楽しい事だったなんて・・・。
そうか・・・、僕はそんな自分が嫌いで怖かったんだ・・・。

そう思った瞬間、目の前の僕の姿が別のものに姿を変えていった。

身体が大きくなり、首も伸び頭からは角も生えてきた。
背中には羽を広げ、尾も長く伸びていく・・・。
牙も生え、手足からは鋭いつめも伸びてきた。

「どうした?。」

突如呆然としている僕に、さっきまで僕の姿をしていたものが不思議そうに見つめた。

「すごい・・・、まるで昔父さんに聞いた竜のようだ・・・。」

僕がそう呟くと。

「まさか、私の本当の姿が見えているのか?」
「これは驚いたな、お前のような人間は本当に久しぶりだ。」

僕の前で竜に姿を変えたものは、歓喜の声を上げてそう答えた。


不安とか怖いという感じがまるでない、むしろ安心感が僕の中に広がっていた。

「それが本当の姿・・・、でもどうして突然に?。」

思わず思ってる事が、言葉に出てしまった。

「私にも良くわからないが・・・。」
「お前の中の何かが、変わったと言う事かもしれんな・・・。」

僕の中の何か・・・。
難しい事は良くわからない、でも確かに何か何時もと違う気がする。

「さて、もう一度聞こうか。」
「お前の望みはなんだ?」

また、同じ質問をしてきた。
僕の望み・・・、僕の願いは・・・。

「僕の願いは・・・。」


・・・考えても思いつかなかった。
僕は何を望んできた?。
森に入ってから、ずっと1人で歩き続けここまで来た。
誰にも邪魔されずに、1人になりたいと思っていたはずなのに・・・。
誰とも話すことなく、何も聞くことも無く、ただ1人歩いた道・・・。
そうか・・・、誰かが呼んでる気がしてここまで来たのも、何かに期待し好奇心に溢れていたのも・・・。
誰かに会いたいという気持ちがあったからなんだ・・・。
あの道を歩いていて解った。
ただ1人でいる事が、なんて寂しいんだろうって。
だからこんなにも、ここで話をしていて楽しく感じたんだ。
だったら、僕の願いは・・・。

「・・・もう、叶ったかもしれない。」

目の前の竜を見上げ、僕はそう呟いた。

「僕は今1人じゃないし、こうして沢山話もできた。」

おそらく僕は今、自分でも信じられないくらいの笑顔を見せているのだろう。
そう思えるくらいに、自然に笑みがこぼれていた。

「・・・そうか。」
「では、どうだ?」
「ここに残って、私とずっと一緒にいないか?」

突然の言葉に、僕は驚いた。

「私も長年ここにいると、退屈なものでな。」
「話し相手ができると、嬉しいのだが・・・。」

そう言い終わると、僕の返事を待つかのようにこちらをずっと見つめた。

その言葉に、僕は・・・。

「もし、一つだけ願いが叶うなら。」
「やっぱり僕は、自分の村に帰りたい・・・。」

ここに残るのも、確かにいいかもしれない。
でも僕は、やっぱり元の村に戻ってみんなに会いたい・・・。
話しをする楽しさを、1人じゃない嬉しさを、今やっと解ったのに。
このままみんなと別れるのは、寂しすぎるから・・・。

「僕の居場所は、やっぱりあの村なんだ。」

今の僕には、そう素直に思う事ができた。


「・・・それは残念だな。」

そう呟くと、静かに目を閉じた。
そして・・・、風が静かに辺りを走り抜ける。
次第にその風が、僕の周りに集まってきた。

「この風・・・、僕がここに来た時に感じた風に似てる気がする。」

暖かく安らぐ感じのする、心地の良い風。

「その風の導くままに歩めば、お前の村まで帰る事ができるだろう。」

そして目の前の竜は、出口らしき通路の方に指を向けた。


僕は暫らく、出口のあるその方向を見つめた。
いざ村に帰れると思うと、少し心残りができた・・・。
でも・・・、自分で決めた歩むための場所なんだ。

「最後に、名前を聞かせてもらえないか?」

そう言えば僕たちは、名前すら知らないで話していたんだ。
そんなことも忘れて、夢中になっていたなんて。
本当に、今までの僕には無い事だった。

「僕の名前は、アイン・・・。」
「アインフュールング。」

僕が名前を告げると・・・。

「アインフュールング・・・か、また逢う時までその名を覚えておこう。」
「私の名はラーズロゥ・・・、良かったらその心に刻んでおいてくれ。」

ラーズロゥ・・・、そう名を告げると静かに僕を見つめた。

「僕は、ここに来れて本当に良かった。」
「ありがとう・・・、ラーズロゥ。」

・・・さようなら・・・

最後の言葉が、声にならなかった・・・。
そして僕はその場を後にした・・・、村に帰るために・・・。


僕はまた、森を歩き続ける。
最初に通った道とは、違う景色が僕の前に広がってきた。
木漏れ日が地面まで届き、草や苔などを照らし光り輝く。
不思議だ、来る時にはあんなに薄暗かったのに・・・。

まるで・・・、僕の心をそのまま表したかのようだ。

自然と口元がゆるみ、笑みがこぼれる。
自分の気持ち一つで、こんなにも世界が変わって見えるのだろうか・・・。

そして歩き続けた、この森の出口を目指して。
・・・僕の村に、帰るために。


やがて、道の先に明かりが見え出した。
外からの明かり・・・、出口だ。
心なしか来た時よりも、帰りの道のほうが短く感じた・・・。
そして僕は、とうとうこの森を出て村に戻ってきた。

村に戻った僕を迎えるかのように、夕日が僕に射しかかる。

「え?、夕方・・・?。」

僕が森に入ったのは、確か正午くらいだったはず・・・。
森を歩いただけでも、数時間はかかったと思っていたのに。
疑問を頭で考えながら、自分の家に帰り着いた。
家に戻った僕を、母さんが突然抱きしめてきた。
父さんも安心したかのような顔を向け、僕の頭にそっと手を置いて・・・。

「よく無事に帰ってきたな、おかえり・・・。」

そう、僕に伝えた。

夕食をとりながら、僕は今までのことを話した。
森に入り、ラーズロゥに会い、そして森から戻った事。
そして話し終わった時、半信半疑な顔を父さんと母さんは見せた。

・・・それは仕方の無い事だ・・・

僕の中で、その言葉が浮かんだ。
その後父さんは、村の人に僕が無事戻った事を伝えに出かけていった。
後から聞いた話だと、僕が行方不明になったと言う話が村中に伝わっていたらしい。
そして戻って来た父さんは、禁じられた森に入った事は事実だからと僕を叱った・・・。

そして僕は自分の布団に入り、その日は眠りについた。
すごく久しぶりに、暖かく感じる布団の中で・・・。


窓から差し込む朝日の光で、僕は目覚めた。
昨日の事が嘘のように、何時もと変わらない朝を迎える。
そして自分に与えられた役割を、何時もと同じように済ませていく。
家に戻る途中、何時もの声が背後から聞こえた。

「お前俺達まで森に入った事をちくっただろ!。」

どうやら同じように叱られたらしく、僕に苦情を言いつけてきたようだ。

「本当の事だしね、さっさと僕を置いていなくなったし。」

ちょっと皮肉めいて、僕は答えてみた。

「仕様がねぇだろ、あんなバケモンに追いかけられたんじゃ・・・。」

バケモノが出た?、何の事か解らずに僕は・・・。

「バケモノ?、何言ってるの?」

相手も僕の言ってる事が解らないらしく。

「お前こそ何言ってんだよ、森に入ってすぐにバケモンが現れて襲い掛かって来たじゃねぇか。」
「俺達は何とか森の外に逃げ出したけど、お前も何時の間にかいなくなってて・・・。」
「バケモンに食われちまったんじゃねぇかと、心配してたんだぞ。」

心配?、僕の事を・・・。
そうか・・・、1人だけだと僕が勝手に思っていただけなのか。

「心配させてゴメン、それから有り難う。」

僕がそう答えると。

「べ、別にいいんだよ、そんな事は・・・。」
「無事に戻ってきたんだしな。」
と、照れくさそうに話す仕草が何か可笑しくて、僕は思わず笑っていた。

「無いが可笑しいんだよ!」

照れ隠しのように、また僕に怒鳴りつける。

「ゴメンゴメン、なんでもないよ。」

と、笑いを抑えながら僕は答えた。
その僕の様子を見て、不思議に思ったのかしっくりこない顔をして僕に問いかけてきた。

「おまえ、何か変わったか?」
「なんか今日のお前、何時もより話しやすいんだよな・・・。」

それはきっと、あの森での事のせいだろう。
僕も素直に言葉が出てくる、自分でも不思議なくらいに・・・。

「森に置き去りにされたおかげかな?」

と、僕は意地悪っぽく答えた。

「そ・・・、あぁもう、悪かったよ。」
「それはもういいだろ・・・?」

さすがに申しわけないと思ってるらしく、その事については反論できないようだった。

「森での事、教えてあげようか?」

その事に興味を示したのか、いきなり僕の目の前まで来て・・・。

「ほ、本当か?、実はそれすっげぇ気になってたんだよな。」

そう喜び興奮してた。

そうして、この日一日がすぎて行った。
これからも変わらない、何時もと同じ毎日が続くのだろう。
ありふれた日常、平穏な毎日・・・。
ただ何時もと違うのは、僕の心の中・・・。
今までとは違う期待を込めた思いを膨らませて、僕はこの村で生きていく・・・。
ここに住むみんなと一緒に、いつまでもどんな時も。

・・・この気持ちが色褪せることなく、ずっと心に刻んでいられるから・・・


top